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本コラムでは、現役の、経営学専攻の大学院生である筆者が、卒論・修論等を執筆する際に役に立つ方法論(入門編発展編)、または研究の進め方や論文執筆時の心構えなどを解説する書籍(本ページ)を紹介します。基本的に私自身が大変参考になった、また参考にしている本ばかりです。社会科学、特に経営学を専攻する学部生・大学院生のみなさんにお役に立てば幸いです。(米田 晃:神戸大学大学院経営学研究科在籍)

【研究・論文とは何か 編】

卒論・修論等を執筆する際には、「論文には何を書くべきか(あるいは何を書いたらいけないのか)」、「優れた研究・論文とは何か」について、深く理解し、自分なりの考えや判断基準をもっておかなければなりません。

初学者は「データ分析が終わったら、後は論文を書くだけだから楽勝」と思いがちですが、むしろこの「書く」という段階が、卒論・修論等に取り組む上で一番努力を必要とします。なぜならば、論文の質は「書く」という段階によって大きく規定されてしまうからです。
先ほど、方法論のテキストについて紹介しましたが、いかなる方法論的立場にもとづく研究であっても必ず方法論自体が持つ限界が存在します。例えば、質的調査では一般性について課題があるという指摘がしばしばなされます。

それでも、方法論的な限界を踏まえた上で「こういった事柄をデータから解釈することはできるだろう」という主張をすることが可能です。むしろそのような解釈を提示することによって、論文の質を保つことができます。逆に、「書くこと」を怠ると論文の質が一気に低下します。
また、将来的に研究者になることを志している方は、「研究者はなぜ研究を行うのか」という究極的な問題についても考える必要があります。特に近年は、研究業績評価においてジャーナル論文が重視される傾向が高まっている中で、とにかく少しでも有力なジャーナルに論文を投稿することが研究の一番の目的となっている、いわば「論文投稿のゲーム化現象」が起こっています。このような状況の中で、一部の研究者は「我々は何のために研究を行なっているのか」という批判的な自省を行なっています(Tourish, 2019)。

もちろん、ジャーナルへの論文投稿を目指すこと自体は何も問題ではなく、むしろ自身の研究を広く世間に発信する第一歩となるため、望ましいことであるといえます。大切なことは、「論文投稿のゲーム化現象」をただ批判するのではなく、そういった潮流にいる自身が身を置いていることを冷静に自覚し、「なぜ研究を行うのか」について自分なりの考えを常に持っておくことです。
そこで、これらの事柄を理解する上で参考になる書籍を、ここでは3冊紹介します。この3冊については特に読む順番はありませんが、論文の書き方について知り方は(1)を、研究を行う理由について自分なりに考えてみたい方は(2)と(3)をまず読まれることをお勧めします。

(1)伊丹敬之(2001)『創造的論文の書き方』有斐閣

本書は、これから論文を書く予定の学生に向けて心得ておくべき事柄について解説しています。ただし、本書は「論文の書き方」といってもいわゆる「文章読本」ではありません。もちろん、このような事柄について解説した本を読むことも大切です。
本書は研究テーマの選択において注意すべき事柄や、日常生活レベルで情報の接し方について意識することについて解説がされています。
少し注意すべき点として、本書にはハイコンテキストな記述もあるので、一読して全てを理解できるというよりも、何回か繰り返し読んでいくうちに段々とわかってくるといった内容になっています。そのため一度読んで無理にすべてを分かろうとせず、後に、研究に行き詰まったなと思うようになった頃、再度読まれるのをおすすめします。


(2)小川進(2021)『世界標準研究を発信した日本人経営学者たち:日本経営学革新史1976-2000年』白桃書房

本書は、伊丹敬之先生、野中郁次郎先生、藤本隆宏先生、延岡健太郎先生らの研究史をもとに、文献研究が中心だった日本の経営学界が変革されていった過程を物語風に記述したものです。経営学を専攻する学生であれば、四人の先生方について知らないという人はいないと思われますが、意外にも先生方の実際の研究活動について詳細に記述した書籍は、これまで存在しませんでした。

経営学研究の楽しさを伝えるという目的のもとに書かれているという点において、先ほど紹介した『リサーチ・マインド 経営学研究法』と類似していますが、相違点としては紹介されている研究が国際的にも特に有名なもの、その一つの基準として引用回数が多い研究を取り上げている点が挙げられます。

本書の中心的なメッセージは、「自分にとって楽しい研究を行うこと/国際的に評価される研究を発信しなければならないこと」、「研究業績として評価されるのは論文であり、本は評価されない」といった事柄は、実際は矛盾することなく両立可能であり、研究者は創意工夫のもとで様々な研究方法・研究発表方法を思案することができるということです。本書は、経営学研究者を志す学生が自身の研究スタイルについて検討する上で、大いに参考になると思います。


(3)青島矢一編著(2021)『質の高い研究論文の書き方:多様な論者の視点から見えてくる、自分の論文のかたち』白桃書房

最後に紹介するのは、青島先生らが書かれた『質の高い研究論文の書き方』です。本書は原稿を依頼されたときには未読で、本コラム執筆時に白桃書房の担当者からおすすめということで献本いただきました。この本は著名な経営学研究者がそれぞれの視点から、その名の通り、「質の高い論文とは何か」について検討しています。

本書を読むことによって、「質の高い論文」には、多様な視点に基づく定義が存在するのを理解することができるでしょう。そのため、これから論文を書く予定の学生にとっては大いに参考になると思います。

例えば、「質の高い論文」の定義の一つとして、被引用回数が多い論文が挙げられます。確かに、どれだけ時間をかけて論文を書き上げたとしても、全く誰にも読まれない・言及されないものであったとすれば、それを「質の高い論文」と呼ぶのは違うような気がします。

他方で、どこかの紀要や報告書にひっそりと掲載された、被引用回数は少ないが新規性や実践的含意に富む「知る人ぞ知る論文」も中には存在することが本書では書かれています。もちろん、この点をもってして「被引用回数が多い論文=質の高い論文」という定義を完全に否定することはできませんが、少なくとも被引用回数という観点のみでは「質の高い論文」を定義することはできないことがわかります。

本書の副題は、「多様な論者の視点から見えてくる、自分の論文のかたち」となっています。この副題にあるように、読者は「質の高い論文」の定義を著名な先生方から拝借して、その土俵の上で論文を書くことをゴールとするのではなく、むしろ本書で示された多様な「質の高い論文」の定義をもとに、自分なりに「質の高い論文とは何か」についてじっくり考えることが大切と思います。

参考文献
Tourish, D. (2019) Management Studies in Crisis: Fraud, Deception and Meaningless Research. Cambridge University Press(編集注:佐藤郁哉氏(同志社大学教授)訳で『経営学の危機———詐欺・欺瞞・無意味な研究』の邦題で間もなく弊社より刊行されます).

2022年4月26日公開

「方法論に関する書籍 入門編」はこちら
「方法論に関する書籍 発展編」はこちら

米田 晃:神戸大学大学院経営学研究科在籍
専攻は人的資源管理論、組織論、クリティカル・マネジメント研究など。学部生の時に、方法論研究者のゼミ所属することをきっかけに、方法論に興味を持つようになった。現在は、人的資源管理論の方法論研究を行なっている。