本コラムでは、現役の、経営学専攻の大学院生である筆者が、卒論・修論等を執筆する際に役に立つ方法論(入門編、発展編・本ページ)、または研究の進め方や論文執筆時の心構えなどを解説する書籍を紹介します。基本的に私自身が大変参考になった、また参考にしている本ばかりです。社会科学、特に経営学を専攻する学部生・大学院生のみなさんにお役に立てば幸いです。(米田 晃:神戸大学大学院経営学研究科在籍)
【発展編の4冊】
発展編では、方法論に関する書籍のうち、入門編でご紹介した3冊を読んだ後に読むことがおすすめの4冊を紹介していきます。
方法論に関する本をなぜ読むべきなのか、については「方法論に関する書籍 入門編」ページをご覧ください。
(4)野村康(2017)『社会科学の考え方:認識論、リサーチ・デザイン、手法』名古屋大学出版会
この本は、社会科学の方法論を学ぶ上で必ず理解しておかなければならない「存在論」、「認識論」について解説したものです。存在論や認識論についての詳しい説明は本書を確認いただくとして、その学習の目的は、自身の研究の基本的な目的・特徴を把握することにあります。例えば、実証主義的な研究であれば研究対象を「予測・説明すること」、批判的実在論であれば研究対象を「説明すること」、解釈主義であれば研究対象を「理解すること」が基本的な目的となります。
存在論や認識論について理解しておくことで、研究の目的・特徴を明確化することができ、自身の研究を他者に対して説得的に主張することができます。初学者にとっては存在論、認識論などの議論を理解するのは少し難しいかと思われますが、これらの議論は避けては通れないので、少し高度ですがぜひ早いうちに一読することをおすすめします。
(5)須田敏子(2019)『マネジメント研究への招待:研究方法の種類と選択』中央経済社
本書もまた、上で紹介した『社会科学の考え方』と同様、存在論、認識論について説明したテキストですが、著者が経営学者ということもあり、経営学研究の例を元に解説されている点に特徴があります。そのため、経営学専攻の学生にとっては、存在論、認識論の議論を自身の研究にひきつけて考えやすいテキストと思います。
また、本書はコラムに書かれていることも非常に興味深く、初学者にとって参考になることが多いと思います。例えば「なぜ定性研究で仮説検証型研究をしてはいけないのか」というコラムでは、定量研究と比較して定性研究ではデータ分析過程の透明性が低い、すなわち仮説検証のために使用した全てのデータを公開することが困難であるため、向いていないということがわかりやすく解説されています。
(6)服部泰宏(2020)『組織行動論の考え方・使い方:良質のエビデンスを手にするために』有斐閣
本書は組織行動論のテキストといった方がより的確ですが、組織行動論を専門としない学生にとっても研究を行う上で参考になる、方法論に関する分厚い記述がありますので、取り上げました。
本テキストは、第1部「組織行動論の立ち位置」、第2部「組織行動論は何をどう測るか」、第3部「組織行動論の充実のために」という三部から構成されていますが、初学者はまず第1部を熟読することをおすすめします。第1部第1章には、組織行動論における研究トピックの変遷や様々な研究問題の浮上についてレビューがなされているのですが、このレビューを通じて、初学者は組織行動論に限らず「各学問分野には特有の研究問題が存在するということ」(いわゆる学問的関連性(academic relevance))と、「各学問分野における特有の研究問題を踏まえた上で、それと自身の研究を関連づける必要性があること」を理解することができると思います。
要するに、自身が専攻する学問分野で議論されている問題、あるいは関心にもきちんと目を向けることが重要であるということが把握できるでしょう。もちろん、本書に書かれている研究問題はあくまでも組織行動論に限ったものなので、自分の専攻の分野における研究問題を調べることが大切です。
また、第1部の第3・4章では概念や理論、測定について詳しく説明がなされているので、その点も含めて参考になるかと思います。自身が専攻する学問分野における研究問題に対する関心を育むことの重要性と、研究を行う上で欠かせないキーワードである概念、理論、測定といった用語を適切に理解することができるという点で、初学者にぜひおすすめしたい本です。
(7)藤本隆宏・高橋伸夫・新宅純二郎・阿部誠・粕谷誠(2005)『リサーチ・マインド 経営学研究法』有斐閣
本書は、特に大学院進学を検討している学部生や研究者になることを志す大学院生の方におすすめしたい一冊です。そのポイントは、何といっても著者である藤本隆宏先生、高橋伸夫先生、新宅純二郎先生、阿部誠先生、粕谷誠先生らが体験された研究プロセスについての記述にあります。先生方が体験された研究プロセスを知ることによって、「研究は計画通り進むものであるというよりも、創発的に進展していく要素が大きい」ということが具体的に理解することができます。
このことは(1)に取り上げた佐藤郁哉先生のテキストにおいても解説されていることでもあり、『ビジネス・リサーチ』、『社会調査の考え方』を読まれた後に目を通すと良いと思います。
2022年4月26日公開
「方法論に関する書籍 入門編」はこちら
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米田 晃:神戸大学大学院経営学研究科在籍
専攻は人的資源管理論、組織論、クリティカル・マネジメント研究など。学部生の時に、方法論研究者のゼミ所属することをきっかけに、方法論に興味を持つようになった。現在は、人的資源管理論の方法論研究を行なっている。