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本コラムでは、現役の、経営学専攻の大学院生である筆者が、卒論・修論等を執筆する際に役に立つ方法論(入門編・本ページ、発展編)、または研究の進め方や論文執筆時の心構えなどを解説する書籍を紹介します。基本的に私自身が大変参考になった、また参考にしている本ばかりです。社会科学、特に経営学を専攻する学部生・大学院生のみなさんにお役に立てば幸いです。(米田 晃:神戸大学大学院経営学研究科在籍)

【方法論を学ぶことの必要性】

方法論とは研究プロセスに関わる議論・研究対象の捉え方に関する議論を指します。もう少し厳密にいうと、リサーチ・デザイン、存在論・認識論などについて、より抽象的な次元から検討する議論のことを指します。

また、方法と聞くと、統計分析やインタビューなどの具体的な技法を思い浮かべるかもしれませんが、そのような技法に関する議論は一般に調査方法論と呼ばれ、ここでいう方法論と区別されることに注意してください。単純化を恐れずにいえば、方法論は研究に関する抽象的な議論であり、調査方法論は研究に関する具体的な議論であると理解しておけば大丈夫です。

方法論を学ぶことによって、自身の研究プロセスの組み立て方や、研究対象の捉え方について議論することが可能となり、それによって自身の研究の特徴や基本的な前提を他者に対して説明することができます。別の言い方をすれば、自身の研究を正当化させるために、初学者は方法論について学ぶ必要性があります。

方法論編で紹介する7冊を読む順番としておすすめは、下記でご紹介する(1)『ビジネス・リサーチ』、(2)『リサーチ・デザイン』、(3)『社会調査の考え方』の3冊で、以下の入門編で紹介します。

そして、別ページの発展編で紹介する(4)〜(7)の中で関心があるものを選び読み進められるのが良いと思います。

【方法論入門編の3冊】

(1)佐藤郁哉(2021)『ビジネス・リサーチ(初めての経営学)』東洋経済新報社

本書は、経営学を専攻する学生を念頭に書かれた方法論の入門テキストです。著者の佐藤先生は、社会調査論に関するテキストを数多く出版されていますが、方法論についてのはじめの一歩として、本書がおすすめです。

本書のポイントは、社会調査を全く行なったことがなくても、社会調査の特徴や、基本的な枠組みについてわかりやすく理解することができるように、必要最低限の内容がまとめられているという点です。

初学者の多くは、社会調査を行う上で統計的な分析手法や聞き取りの仕方といった、具体的な技法(調査方法論)についてまず理解しておかなければならないと思いがちです。もちろん、調査方法論を理解しておくことも大切ですが、「Garbage In Garbage Out(GIGO:屑入れ屑出し)」という言葉に示されるように、いかに高度な技法によってデータを分析することができたとしても、データの収集方法や研究テーマ・仮説の設定等において問題があった場合、それは欠陥調査(いわば単なるゴミにすぎないもの)となります。それを防ぐためにも、具体的な技法について学ぶ前に本書を読むことをおすすめします。

ただし、本書で扱われている内容は、社会調査を行う上で理解しておくべき必要最低限の事柄のみとなっているため、後で紹介する『社会調査の考え方』もあわせて読む必要があります。

(2)田村正紀(2006)『リサーチ・デザイン:経営知識創造の基本技術』白桃書房

本書は、経営学研究におけるリサーチ・デザインについて解説したものです。著者の言うリサーチ・デザインとは、どのような問題を研究課題として設定すべきか、研究課題をどのような理論的枠組みで捉えるのか、理論を実証するためにどのようなデータを選択すればよいのか、データによって因果推論を行うためにはどうすればよいのか、などといった具体的な研究のあり方、進め方を決める諸構想を指します。

これらは実証研究を行う上で必ず理解しておく必要があるため、実証研究を行う予定の初学者は、本書に目を通しておくことを強くおすすめします。書かれている内容の難易度としては『ビジネス・リサーチ』と同等と思われるので、続けて読むのがいいと思います。

(3)佐藤郁哉(2015)『社会調査の考え方(上)』『社会調査の考え方(下)』東京大学出版会


本書は、(1)に挙げた『ビジネス・リサーチ』よりも、社会調査の基本的な枠組みや、調査技法の特徴について詳細な説明がされており、『ビジネス・リサーチ』の内容を補強するのにおすすめです。本書は、上巻と下巻に分かれていますが、特に上巻が重要です。上巻には、「研究は計画通り進むものであるというよりも、創発的に進展していく要素が大きい」ことや、筋の良いリサーチ・クエスチョンの条件などについて詳細な説明がされています。

なお、私が最初に読んだ時には本書中の、「研究は計画通りに進むものであるというよりも、創発的に進展していく要素が大きい」ということがあまり腑に落ちなかったのですが、発展編でご紹介する『リサーチ・マインド 経営学研究法』とあわせて読むことで、理解が深まりました。

2022年4月26日公開

 

「方法論に関する書籍 発展編」はこちら
「研究・論文とは何か」はこちら



米田 晃:神戸大学大学院経営学研究科在籍
専攻は人的資源管理論、組織論、クリティカル・マネジメント研究など。学部生の時に、方法論研究者のゼミ所属することをきっかけに、方法論に興味を持つようになった。現在は、人的資源管理論の方法論研究を行なっている。