3つの切り口からつかむ 図解中国経済
三尾幸吉郎 著

[内容説明・著者紹介]
[目次]
[梶谷懐神戸大学大学院教授推薦文]

[はじめに]

 本書は、中国経済の入門をしたい方々に向け、またさらに上を目指し、自分の力でその先行きを読み解いていきたい方のことも意識しながら執筆しました。

 中国経済の現状を見極めることは決して容易なことではありません。経済分析を行う際には統計が頼りとなりますが、中国の経済統計に対する不信感には深刻なものがあります。中国経済を専門に分析するどのエコノミストも、「中国の経済統計は信頼できる」と自信を持って答えることはないでしょう。地方ごとの国民総生産(GDP)である域内総生産(GRP)水増しの発覚や、定期的に公表されていた経済統計の突然の発表中止、また、つじつまの合わない経済統計が散見されるなど、お聞きになったことがある方も多いでしょう。

 ただし、経済統計を幅広くフォローし、長期にわたる推移や国際比較などで補完しながら分析を深めると、中国経済のおおよその姿をつかむことは可能です。先ほど触れたGDPを例に検討してみます。国際通貨基金(IMF)発表の名目GDPによると、中国経済は2010年に日本を超え、世界第2位の経済大国になりました。しかし、根強い不信感から、今もそれを疑う声があります。

 まず、世界の自動車市場を調べてみます。2017年に中国で販売された自動車は3千万弱で日本の5・6倍に達し、世界シェアは約3割を占め、米国の18%を大幅に超えています。さらに、日本の輸出統計を見ると、中国向けは米国向けと一・二を争う金額に増加しており、欧州連合(EU)向け輸出の2倍前後となっていることが分かります。貿易統計は中国が発表するデータと貿易相手国が発表するデータとを突き合わせることができるため、ごまかしにくく信頼性の高い統計です。加えて、中国からの旅行者が大挙して日本の各地を訪れるようになり、彼らのインバウンド消費が地方経済を活性化させる起爆剤となっているという実感も確かにあります。こうした状況を総合的に勘案すると、中国政府が公表するGDPがやや不正確であったとしても、中国の経済規模が日本を超えて米国に次ぐ世界第2位の経済大国であることは、ほとんど間違いない現実だと考えられます。

 本書では、中国の発表する統計もこのように注意しながら用い、分析を行っています。

 もうひとつ、中国経済の先行きを読み解く際のチャレンジがあります。日本人が欧米先進国の経済を見る場合には、各国で制度に多少の違いはあっても、言論の自由や民主主義、財産権の保護、法の支配などの価値観や、資本主義という経済の基本的枠組みが共通しているため、日本の常識を前提に推論を展開すれば読み解けることが多い一方、「中国の特色ある社会主義」を掲げる中国では、中国共産党による国家の指導(中国語では「領導」)を正当化するとともに、その指導は国有企業ばかりか民間企業や外資系企業にも及ぶ「国家資本主義」的な経済運営が行われているので、日本の常識を前提に推論を展開すると大きな間違いをおかす恐れがあります。したがって、日本人が「中国は債務危機に陥るのか?」「中国の住宅バブルは崩壊するのか?」といった諸問題を読み解くにあたっては、中国共産党が国家をどのように指導しているのか、を十分に踏まえた上で推論を展開する必要があります。例えば、「マルクス・レーニン主義」「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」「主要な矛盾と主要でない矛盾」など、馴染みの薄いイデオロギー的な用語も登場しますが、みなさんにも理解しやすいよう、折に触れ分かりやすくご説明しています。

 また本書は、ふんだんに図表を盛り込んでいます。経済を読み解く上では、ボリューム感やトレンドを把握することが欠かせません。グラフを処理するのはなかなか大変なのですが、入門者にも分かりやすくということを心掛けました。さらに、中国経済を自らの力で読み解けるようになりたいという方に向けての工夫として、多少高度な内容をコラムでご紹介したり、参考になる統計資料をご紹介しています。

 本書は「中国経済アウトルック編」「中国の先行きを読み解くキーワード編」「中国経済深層分析編」の3編から構成されています。

 「中国経済アウトルック編」では、中国経済の現状をできる限り簡単かつ多角的に把握できるように、104個に及ぶ図表を使ってビジュアルに解説しています。中国経済の基本を押さえ、さらに先行きを自分の力で読み解けることを目指すにあたっては、中国に関する主要な経済統計を一通り、実際に確認してみることが欠かせません。

 具体的には、「世界における地位」では世界における中国経済の地位がどのような変遷を辿って現在に至ったのかを、『「改革開放」以降の4つの経済転換点』では改革開放開始(1978年)、社会主義市場経済導入(1993年)、WTO加盟(2001年)、世界金融危機(2008年)の4つの時点に着目し、経済構造がどう変化してきたのかを、「所得水準と所得格差」では世界における所得水準の位置や中国における所得格差の現状を概観しています。また、「消費市場に関する基礎知識」「投資に関する基礎知識」では、消費と投資という、米国と好対照を示す2つの主要なカネの使い途から経済の実態に迫ります。「輸出の特徴と経常収支」「輸入の特徴と輸入元としての日本」では中国の貿易の現状と特徴を解説し、世界各国への経済的なインパクトも実感していただけます。そして、「金融市場に関する基礎知識」では資金調達と資金運用の基本構造や中央銀行と市中銀行の関係、それにシャドーバンキング問題などを取り上げ、「証券市場に関する基礎知識」では株式・債券市場における業種構成や投資家構成などの基礎知識、さらに日本の株式市場との相違点をまとめ、今後、開放が進む中国の金融についてご理解いただけます。最後の「バラエティに富む地方経済」では、さまざまな指標の地域ランキングから、その経済環境の多様さを示しました。

 「中国の先行きを読み解くキーワード編」では、中国経済を読み解く上でカギを握るキーワードを挙げて解説しています。具体的には、少子高齢化への対応が待ったなしの状況にある「人口問題」を最初のキーワードとしました。次に、習近平国家主席が肝いりで推進する「三大堅塁攻略戦」を取り上げました。重大リスク防止・解消、的確な貧困脱却、汚染防止の目標を達成する期限が2020年となっており、当面の経済運営に大きな影響を及ぼすと考えられるからです。また、国際関係を読み解くキーワードを3つ挙げました。中国主導の「北京コンセンサス」は、米国主導の国際協調の枠組み、ワシントン・コンセンサスと対峙し、世界を舞台に縄張り争いが広がりつつあります。そして、米ドルが基軸通貨となっている現在の国際通貨体制に挑む「人民元の国際化」、中国主導で開発が進む「一帯一路」の3つです。最後に、中国経済の命運を左右するキーワードを3つ挙げました。中国は生産要素投入型の経済からの脱却を目指して「イノベーション(創新)」を推進し、積極的にヒトとカネを投入してきており、成果も出始めています。そして、米中貿易摩擦の火種ともなっている「中国製造2025」、そして、さまざまな分野にインターネットを取り入れてプラスすることによりイノベーションの加速を目指す「インターネットプラス」の3つです。

 最後の「中国経済深層分析編」は、講演会で質問をいただいたり、マスコミからの問い合わせを受けることの多いテーマを取り上げ、それに対する筆者の現在の見方を示しました。具体的には、「中国共産党はどのように統治するのか?」「中国は中所得国の罠にはまるのか?」「中国は債務危機に陥るのか?」「中国の住宅バブルは崩壊するのか?」「チャイナ・ショックは再来するのか?」「中国の外貨準備は十分か?」「米中対立はどうなるのか?」「習近平政権二期目の経済運営のどこに注目すべきか?」の8つを取り上げています。ここでは「中国経済アウトルック編」で解説した中国経済の各断面を縦軸、「中国の先行きを読み解くキーワード編」で解説したキーワードを横軸としながら、必要に応じ、世界の先行事例などを踏まえた視点という第三の軸も加えるという分析手法を取っています。

 筆者の中国経済に関する研究歴は10年を超えました。学生時代には中国政治を専攻し「4つの近代化」をテーマに卒論を書きましたが、その後、27年間、グローバル証券運用を仕事としていました。そして、さまざまな世界的な金融危機を運用現場で実際に体験し、ニューヨーク駐在時には、世界金融危機で破綻に追い込まれたリーマン・ブラザーズ社に約半年お世話になったこともあります。こうした経歴が本書の執筆に役立った面ももちろんありますが、中国経済アウトルック編で取り上げたテーマはやや証券金融関連に偏っているかもしれません。中国経済を読み解くテーマは、本書で取り上げたもの以外にもいろいろあるでしょう。今後も、新たな問題を取り上げ、筆者自身も読み解く力を鍛えていく
つもりです。また、読者の方々が、ご自身の関心のある分野について中国経済を読み解いていく際に、本書がその一助となれば幸いです。そして、いつの日か、読者のみなさんと中国経済に関する諸問題を議論する機会が得られれば、筆者にとってこの上ない幸せです。

 最後に、本書の出版に当たっては森安圭一郎氏と寺島淳一氏に大変お世話になりました。「中国経済アウトルック編」の原案となった「図表でみる中国経済」(筆者が所属するニッセイ基礎研究所で発行してきた調査レポートシリーズ)の読者でいらした森安氏には励ましとお力
添えを頂きました。また、白桃書房の寺島氏には編集に当たり有意義な助言を数多く頂戴しました。このお二人のご支援がなければ本書が出版に至ることはなかったでしょう。この場を借り、心より感謝申し上げます。

 2019年7月 三尾幸吉郎

三尾 幸吉郎 著
出版年月日 2019/08/26
ISBN 9784561923046
判型・ページ数 A5・288ページ
定価 本体2315円+税