(写真は、壁画が描かれたスパニッシュ系カフェ。)

 ミッション近隣地区は、現在サンフランシスコでもっとも興味深く、活気のある地区です。
 旧住民が創り上げてきた街の雰囲気が残りつつ、裕福な新住民が流入しつつあり、それに合わせおしゃれなレストランやブティック、ギャラリーなどが進出してきています。

housewithwallpicture この地区にはもともとスパニッシュ系住民が多く住んでいて、街にはスパニッシュ系のカフェや、カフェに限らず住宅にも壁画が多く描かれ、これらにスパニッシュ系住民の文化がビビッドに示されています。

birite また、従来のスパニッシュ系住民に加えて、近年、シリコンバレーで働く若い専門職者、また北西にGLBT(ゲイ、レズビアン、両性愛者、性転換者の英語の4語の頭文字を取った略語)が多く集まるカストロ地区があることから彼らも多く地区に流入してきており、可処分所得の多い新しい住民の懐をあてにした新しいビジネス、例えば、「バイライト・マーケット」(Bi-Rite Market:http://www.biritemarket.com、写真右)のような魅力あるベンチャーの食品スーパーなども増えてきています。

 『チャイナタウン、ゲイバー、レザーサブカルチャー、ビート、そして街は観光の聖地となった─「本物」が息づくサンフランシスコ近隣地区』著者の畢さんは、このスーパーを利用した際の様子を次のように書いてくれています。

 アメリカのスタンダードから考えると有り得ないほど小さな店の店頭・店内には、鮮やかなお花や不揃いの有機野菜・果物、自家製のパスタソースやミートローフなどがずらりと並べられていました。また、店員を探すのに一苦労する大手チェーン店とは異なり、バイライトの店内には店員が数多くおり、そのほとんどは若い人たちでした。

 値段が違う2種類のイチジクのうち、どちらが甘いかと店員の一人にたずねたところ、それぞれの種類の特徴を説明してくれただけでなく、その場で果物ナイフを取り出してイチジクをカットし、私に試食させてくれました。これらの若い店員は、自分の店が提供する商品に自信を持っており、また、店から大きな権限を与えられていることがうかがえました。バイライトの自家製パスタソースを購入する際、私は「このソースは何分ぐらい加熱すれば良いのか」と店員に質問をしました。その店員は、パスタソースの加熱方法にとどまらず、そのパスタソースに合うパスタの種類まで勧めてくれました。生き生きと働く若い店員達の姿を見て、彼らは近い将来、「新たなバイライト」の創業者になるだろうと思いました。

 この他、古くからの名所として、ミッションドロレス教会(Mission Dolores)があります。18世紀末に建てられたサンフランシスコ市最古の教会で、正式には「アッシジの聖フランシスコ」(Mision San Francisco de Asis)と言います。スペインの植民地であった時代に、カトリックの布教のために建築され、それにあたりサンフランシスコの先住民たちが徴用されていました。先住民たちはその後、はしかの流行で大勢が亡くなり、その鎮魂のため、墓地にはオロニ族の小屋が建てられています。

 ミッション近隣地区は、新住民の流入などにより地区の家賃が押し上げられ、結果としてスパニッシュ系住民が当該地区から転出せざるを得なくなったという、ジェントリフィケーションと呼ばれるマイナスの影響もありますが、総体としてこの街は変わりつつあるダイナミズムの中にあります。