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イベントレポート前半

海賊版の影響と対抗手段

 次も、非常に話題になっているというか、議論が終わらないテーマの一つだと思うんですけども、海賊版というのが合法版の売上を減少させるのか、それとも増加させるのかっていう議論も長く行われています。日本でも、ちょうど私の翻訳が終わりかけのぐらいの時に漫画村の事件がありました。漫画村はマンガのコンテンツを違法に公開してるサイトです。その時の議論として、当然ながら、海賊版を公開すると正規版の売上が減りますよね、だから、絶対海賊版のサイトは許しちゃいけないという議論もあれば、いやいや、海賊版を利用するやつらなんて、最初から本を買う気がないんだから、でも、そうやって興味ないけど見ることによって、最終的には紙のコンテンツを買う結果につながるかもしれないから、宣伝になっていいじゃないかっていうことを言う方もそれなりにいらっしゃいました。本書も、また繰り返しですけれども、そういう議論があることを前提として、エビデンス、データで決着をつけましょうということをしています。

 実際に、例えば、1999年にナップスターというものが登場して、それから10年で音楽の売上が57%減少しました、とか、あとファイル共有サービスのビットトレントが出現した2004年以降の5年間で、DVD売上が43%減少してるらしくって、海賊版を批判する方々は結構、この辺のデータを引っ張ってきて、ナップスターとかビットトレントとか登場した後って、ほら、音楽の売上とか、DVD売上が減ってるじゃないかということを言っているんですけれども、いやいや、売上の減少って、消費者の志向の変化だとか、娯楽の選択肢が増えたとか、インターネットが登場したので、それによる影響もあるんじゃないのと。ナップスターとかビットトレントだけに責任追わせてるんじゃないよ、みたいなことがやっぱり言われていて、今ここでご紹介した議論も多少はデータを使っているんですけれども、そこまで説得力のある結論を導き出せてないという状況でした。本書ではいくつか、先ほどと同じようにデータを引っ張ってきて、検討し結論を下しています。

 ちょっと面白い手法を使っているのですが、学術論文で、過去の似たような研究をたくさん集めて、それらの研究というのが海賊版の影響について、どういう結論を下しているのかっていうのを調べて、良い影響、悪い影響のどちらが出たと結論したかを数える、要は、過去の研究で多数決を採るような話ですね。こういう手法って結構、研究者の間ではあると伺ったことがあります。しかもこの対象になった研究は勝手に発表されたものじゃなくて、査読済みの学術論文を可能な限り、過去にさかのぼって探索をして、先ほどの2人の著者が、25本の関連論文を見つけたそうです。その結果を確認したところ、実は本書の中に、全ての論文のサマリーをまとめているので、興味のある方はご覧になっていただければと思います。結果、海賊行為が売上に影響を与えませんよ、そういった事例を報告してる論文っていうのは、全体25本中の3。いやいや、海賊行為っていうのはやっぱり売上に影響を与えるものなんですよ、そういう事例がありましたよっていうのを報告している例は22本あったそうです。学術論文の中で、結構、25分の3、25分の22っていうのは結構、圧倒的な差で、かなりこの結果だけを見ても、やはり海賊版というのは正規版の売上に悪影響を与えるんだということを言ってしまっても良いと思われる、そんな一方的な結果を紹介しています。

 どうしてそういうことを調べるのかっていう話なんですが、先ほど申し上げたとおり、海賊版って合法版と、価格以外のところでも競争していますよね。ユーチューブなどで見ることができてしまう一方、先ほどもお話しした通り、映像系コンテンツの配信スケジュールは非常に複雑で、映画の公開を始めたら、しばらくは劇場で公開していて、それが終わったら最初に飛行機内での上映が始まって、そして、ようやくDVDのレンタル・販売が始まって、地上波放送が一番最後ですよということになっている。例えば最近も、新海誠さんの新しい作品が出ましたけれども、例えば、あれを見たい、ただ、お金を払いたくない。お金を払わないで無料で見たいっていう場合には、地上波を待たなけければいけなかったりとか、あるいは、お金を払う意図はあるんだけれど、例えば、インドだとか中国だとか、遠くの方に住んでいるので、新海誠さん作品はすごく好きで、新しい映画をいち早く見たいけど、日本に行くお金がない。日本に行って見るのは全然構わないんだけど、なかなか物理的に難しいという場合に、電子版をどこかでアップされると、お金払う気はあったんだけれど、早く見たいから、海賊版を見ちゃおうかっていうことがやっぱり起き得るということです。そうすると、これって電子版って価格で競っているわけじゃなくって、公開日、公開する場所、視聴する場所、そういう利便性で、正規版と競っているという話になって、海賊版は無料、しかも公開後すぐに見られる。米国まで見に行く必要もないし、クオリティも十分だということで見てしまう人はやっぱりいるでしょう。

 そうすると何が起きるかというと、ウインドウっていいますけど、いつどこでどういうタイミングで、コンテンツを公開していくかっていうのを支配する力、つまり既存の企業が価格差別戦略を成立させるのに必要な市場の支配力を、今までのコンテンツビジネス業界、コンテンツプロバイダーは持っていたわけですけど、それが、海賊版というものによって一気に崩されてしまうので、単に無料で提供されるからっていうだけじゃなくて、それ以上にインパクトを正規版の売上というもの、あるいはもっと言うと、今までの既存企業のビジネスモデルを根本から崩壊させる、そんな力を持っているのが海賊版なんですよ、ということを解説しています。

 もう一つ分かったことは、海賊版は確かに問題だということで、先ほど申し上げたような漫画村みたいなサイトを法的な手段でつぶすということが、人々を海賊版から合法版にシフトさせることにつながるかどうか。ここも論点の一つで、海賊版は問題だけど、どうせ海賊版なんかつぶしても、その人たちはただ見なくなるだけだよ、どうせ元から有料では見ないやつらが海賊版見てるだけだ、というような議論がいろんなところであると思うんですが、これ実は、やっぱり調べたところ、事例研究に基づく答えはイエス。要は、合法的にこういう違法なサイトをつぶしたりとか、禁止したりすると、売上にプラスの影響があるということを、これもエビデンスに基づいて言っています。

 いろんな例があるんですけれども、例えば、メガアップロード、これも有名でしたよね。名前からお分かりの通りいろんなファイルをばんばん上げられるっていうもので、中身も別に精査もせず、何でもアップロードしてみんなでシェアできるっていうサイトだったんですけれども、そこが違法コンテンツの温床みたいになっているってことで非常に問題になりまして、2012年1月にアメリカ司法省とFBIが主導してこのサイトを封鎖しました。で、この2012年前後のデータをこの研究者たちがちゃんと取っていて、そこで何が起きたかっていうのを分析しました。つまり、メガアップロード閉鎖前後の映画のデジタル販売を、12カ国で比較しました。英語コンテンツなので、アメリカだけじゃなくて欧米圏でいろんな人たちがアクセスしていて、そこの映画の売上をちょっと確認してみましたと。すると、研究データに含まれていた映画会社の映画デジタル版販売額が、6.5~8.5%、この違法サイトがつぶれたことによって増加が認められたそうです。また、特にヘビーユーザーが多い国ほど、この増加率というのが高かったそうです。もうしょっちゅう違法コンテンツを見に行っているやつらがいっぱいいるような国だと、閉鎖されたらそれだけがんと売上が伸びましたということで、やっぱり、このサイトっていうのが海賊版の温床になっていて、海賊版のユーザーがそこを頼っていたということが分かったということです。

 ただ、メガアップロードの場合、九つの国々の執行機関が関与して、25の捜査令状を取って、そこで一斉に遮断したそうです。要は、アメリカで禁止、次にドイツで禁止、フランスで禁止っていう形で段階を追って禁止するのではなくて、9ヵ国のサーバーを一斉に押さえて、一瞬のうちにメガアップロードが見れないようにしたと。そういうことをしたからこそ、この効果があったんじゃないかっていうことを研究者たちは言っています。例えばですけど、2012年5月にもパイレート・ベイという別のファイル投稿サイトが閉鎖されているんですが、この場合は、別の同じような海賊版サイトがたくさん残っていたので、そのサイトの方に移動していって、合法サイトへのアクセスの変化というものはなかったそうです。ただ、これもパイレート・ベイに関連する類似サイト19サイトをしらみつぶしにつぶしていったところ、ようやく売上が増加していったそうで、こういったデータに基づいた分析の結果、どうも海賊版サイトの利用者は、海賊版を見つけるのがある程度難しくなると、あきらめて合法サイトに移動する。なので、海賊版を見るようなやつはどうせお金払わないよというのは、それは単純に根拠のない意見であって、海賊版をいつも使っている人でも、どうしても見たいものはどうも見るようだということです。ただ、ある程度簡単にできてしまうと、例えば2、3クリックではいかないけれども、4、5クリックぐらいでいけるようであれば海賊版でとなるんですが、10クリックしてもどうもこうもいかないというように、ある程度難しくなると、やっぱり見たいからといって、合法サイトに移動する傾向にあるようだということを結論として言っています。

プラットフォーマーとの闘いとその顛末

 もう一つ、先ほどのは合法サイトと違法サイトの競合でしたけれども、既存のコンテンツ企業とプラットフォームが競合したらどうなるでしょうか。既存コンテンツ企業っていうのは、最近ディズニーが自社で動画配信サイトをオープンしましたけれども、自分たちでコンテンツを持ってる人たちですよね。日本だと、すぐ思い浮かばないんですけども、テレビ局だとかが独自配信サイトを立ち上げるような例です。そういうものとネットフリックスだとか、アマゾンだとか、そういったところの間で紛争が起きたらどうなるのかというような話です。これもなかなか興味深い例なんですけれども、テレビ局とアップルの紛争というのも過去にありました。2007年なので、10年以上前で、かなり古い話ではあるんですけれども、2007年の8月31日にアップルとNBC ユニバーサルの間で紛争が持ち上がりまして、NBC ユニバーサルが自分たちのテレビ番組のコンテンツをiTunes上から全部引き上げるぞという風に脅しました。当時、NBCの番組コンテンツがどのぐらい重要だったかというと、iTunesの売上の中で、40%を占めていたそうです。だから、非常に大きな収入源だったわけですよ。NBCの側は40%も売上がダウンするならAppleはきっとびびるだろうと思って引き上げますと言いました。一方、NBCユニバーサルも痛手を負うだろうという点は、この3カ月後、2007年11月に自社の独自配信プラットフォーム、NBCダイレクトを立ち上げる予定があったので、「別に俺たちはiTunesってチャネルがなくなっても、自分たちのサイトを立ち上げるから、全然痛くないもんね」っていう風に高を括っていて、それで実際に2007年の12月1日、NBCはiTunes上から自社コンテンツを引き上げました。
 これで何が起きたかというと、面白いところなのですが、NBCコンテンツに対する海賊行為が急増したそうです。つまり、ビットトレント、ファイルシェアリングのサービスの1週間の利用量が、iTunes上での同じ期間のNBCのコンテンツ販売量の2倍に達したそうです。加えてNBCコンテンツのDVDの売上が増加しなくて、他のストリーミングサイト、このNBCダイレクトも含みますが、他のデジタルダウンロードサイトやデジタルストリーミングサイトでも、売上増はほんのわずかだったそうです。

 かつ、これが面白いところなのですが、ABCやCBS、FOXなど、他のテレビ局の番組コンテンツに対する海賊行為も、NBCほどではなかったそうなんですけども増加したという傾向が認められたそうです。これはどうも、NBCのコンテンツがiTunes上で見れなくなったのに、なぜかNBCダイレクトには行かなくて、他のストリーミングサイトにも行かなくて、海賊版のビットトレントに行ったら、そこに落ちてるから、それ見るからいいわとなった上に、ビットトレントに行ったら、何だ、NBCだけじゃなくてABCもCBSもあるじゃん、正規サイトで見なくていいや、となって、ABC、CBSのコンテンツもあることに気付かれてしまい、どうもそっちに移ってしまったんじゃないかという分析をされています。

 結構、意外とご経験ある方も多いんじゃないかなと想像してるんですけれども、テレビドラマをちょっと探しに行ったら、実は他のテレビドラマもあったりとか、他のテレビ番組もあったりとか、ないですか? あと、最近ラジオ番組もいっぱいアップロードされているそうですね。ラジオを聞かなくても、ユーチューブに行くと、本当に気になる芸人さんの放送が終わった直後に、全部、しかもCMと音楽をカットしてくれて、聞きやすい状態にしてくれたものが上がっているそうです。律義な方が多いんですね。それを発見してしまうと、ラジオ番組と同じように、そこで探せばいいやっていうようなことがあったんじゃないかというようなことを言っています。

 ところで、慌てたNBCはどうしたかというと、2008年9月4日、あれからおおよそ9か月後、コンテンツを戻しました。もともとは条件面で争っていたんですけども、もう前の条件のままでいいです、私たちが悪うございましたということで謝って、前と同じ条件でiTunes上にコンテンツを戻しました。

 どうなったか。ここから後もなかなか面白い結果なんですが、元の販売量に戻ってきたかというと、当然ながらそんなことはなくて、 海賊行為の減少分はごくわずか。今まで、海賊版に流れていった流出量が少なくなるかと思ったら、その減少量がごくわずかで、結局、iTunes上の売上は戻ってこなかったそうです。これも、ビットトレントの使い方を覚えたユーザーが、iTunesに戻ることを拒んだわけじゃないけれども、いいや、もうビットトレントでみんな見られるから、iTunesに行かなくていいやっていう風に思ってしまった。結構ありますよね。一回あるサービスに流れてしまうと、ビジネスでよく言われる心理的なハードルが下がって、なかなか別に移りづらい。それが非常に悪いことに、海賊版サイトというかファイルシェアリングサイトに対して起きてしまった。その結果、正規版がiTunes上に戻ったんですけれども、ユーザーがiTunesに戻ることは結局はほとんどありませんでした。

 こういう現象を、このエピソードを扱っている章で最後にまとめているんですけれども、コンテンツを支配する企業、NBCのような、元々コンテンツを持っている企業が今までは力を持っていて、俺たちのコンテンツを引き上げるぞ、俺たちの芸人をお前たちのテレビ局に出さないぞ、みたいなことを言っていたわけですけれども、そういったコンテンツを支配する企業から、iTunes、それからビットトレントみたいな顧客を支配する企業、顧客をがっちり握っていて、そこへのアクセスを持っている、デジタルプラットフォーマーへの力の移行が起きてるんですよっていうことを言っています。

デジタル時代に必要な変革とは

 このデジタルプラットフォーマーにどう対応していくか、日本語版でのタイトルでは「サバイバルガイド」というような名前を付けていますけれども、まさにサバイバルするためにどうしたらいいかということで、いろんなアドバイスですとか、知見が示されていますので、ここもぜひ読んでいただければと思うんですが、一つ言えるのは、先ほど申し上げたとおり、コンテンツビジネスは最高の時代でもあり、最悪の時代でもあると。そこを乗り切るために何が必要かというとデータなわけですが、既存コンテンツ企業が抱える課題として、こんなところを指摘しています。

 大きく分けて二つありますよという言い方をしているんですけれども、まず最初は、既存のビジネスモデルに甘えたい、あるいは意思決定の際、勘に頼りたい。先ほどネットフリックスの例で、政治ドラマ、どうせ流行らないよ、っていう、勘に頼るアプローチっていうのを変えたくないっていう。これも意固地になって変えないとかじゃなくって、かったるいとか、今さら変えられない、みたいな、単純に心理的な負担というだけのことが結構、あるんですけれども、特に企業の中で働いてる方って、結構この辺の心理的な負担っていうところのハードルって結構高いなと思っていただけると思うんです。結構、新しいモデルに移りましょうよ、データ分析に基づいていろんなことやりましょうよっていうことを言っても、いや、今までの通りでいいよ、みたいな、そういうまさに組織的な偏見っていうものがあるんですが、そういったものが既存のコンテンツ企業というものには多く見られますよということを、いろんな例をご紹介して、大きな課題の一つとして言っています。

 二番目は、仮にこんな組織的偏見がなかったとしても、分かったと、勘じゃなくて客観的に判断できるように、データに基づいた意思決定を行いましょうということを仮に目指したとしても、その重要なデータが全部プラットフォーマーに握られていて、データがなかなか集められないということがありますよねということを指摘しています。エンタテインメントの制作とプロモーションにおいて重要な要素となった、顧客レベルの貴重なデータへのアクセスが欠如しているっていうところがハードルになって、なかなかコンテンツ企業というのは難しいですよねというような話をしています。

 ただ、そうはいってもそういう方向に変えていかなければいけないので、どう変えていくかっていうのが、本書の後半のメインのテーマになってきます。例えば、こんなことがあります。ものすごいデータ分析、ものすごいデータ収集を行わなくても、まず、簡単な実験から始めることができますよねと。そういう簡単な実験というか、研究者の方々が実際に、企業とやった実験の例がいくつも紹介されてるんですけれども、例えば、ある会社さんとこんな実験をしたそうです。1本のDVDを買うのに15ドル、あるいは20ドルぐらい支払っていた消費者が、デジタルプラットフォーム上で映画にどのくらい払うのか、というものです。値付けの最適化をしたい、でも、データがないのでどうしようといった時に、著者たちは、ある大手の映画会社さんだったそうですけれども、彼らと協力して、彼らが持っている最新のタイトルじゃなくて、旧作のタイトルでちょっと実験をしてみたわけです。旧作タイトルを持ってきて、主要プラットフォーム上で実験的にグループを抽出して、Aグループは価格を9.99ドルから5.99ドルにしますよとか、Bグループは5.99ドルにします 、みたいないろんな実験をしました。その結果、何が分かったかというと、オンライン上の消費者というのは非常に価格に敏感で、価格をちょっと変えただけで、売上が大きく上下するということが分かりました。どのぐらい変化するかというと、価格を半分に下げると需要が3倍、あるいは4倍に増える例もあったということで、なかなか下げられるものばかりじゃないと思うんですが、下げられるもの、特に旧作タイトルについては、思い切って下げた方が逆に薄利多売じゃないですけれども、回り回って逆に儲かるということが分かりました。

 こうした需要の一部は、他のプラットフォーム上におけるレンタルや、販売を犠牲にして、カニバリゼーションが起き、そこで他の売上が減ったところもあったんですけども、その場合でもオンライン価格の低下というものが、映画会社の総売上を見た時には、やっぱり増えましたねということが分かったそうです。こういうような小さな実験を繰り返していって、少しずつデータを集めていって、結果次第では思い切ってガンと変えましょうと。

 実はそういった旧態依然とした会社から、データドリブン、最先端のデータ分析を行う会社にちゃんと生まれ変わった会社があります。例として、コンテンツ企業ではないですけどエンタメ企業の一つとして、カジノで有名なハラーズを紹介しています。これも1章丸々を割いて長い部分になるので、その紹介は端折りますが、1937年の創立当時は小さいけれども革新的な会社だったそうですけれども、大体1990年代の後半から2000年にかけて、この当時のやり方では駄目だからデータに基づいた経営スタイルになりましょうということで、保守的で、旧態依然とした経営をしてきたカジノの大手だったのが一念発起して、データに基づいていろんなことが決定されるような企業に変わりました。

 これも、数年前に話題になっていて、ビッグデータ等の本を読みあさっていた方は絶対どこかで目にしてると思うんですが、ハラーズって本当にデータ分析の鬼みたいな会社で、彼らは、逆にそのような施策は問題だっていう話もあるんですけど、例えば、カジノで負け過ぎた顧客っていうのを即座に把握をして、顧客のところに行って、「今日、負けてしまいましたね」と、「これでおいしいものでも食べてください」みたいな、食事無料券みたいなものを発行してあげたりしていました。当然そういうものを渡したときに、どれぐらいその人が再度来訪してくれるかっていうのもちゃんとデータ分析に基づいて分かってるわけですけれども、そういった、すごく古い会社だって変わろうと思えば変われるんだっていうような話を持ってきて、先ほどのような小さな実験でもいいんだけれども、ここは思い切って変わりましょう、というようなメッセージも発信しています。

 要は、データという羅針盤を手にして、パーフェクト・ストーム、今やってきている、単純な嵐じゃない、いくつかの変化が複合した完璧な嵐、業界全体を壊すような嵐がやってきているけれども、そこを乗り越えていきましょう、そういう企業に変わっていきましょうというのが、本書の根幹にあるメッセージなのかなと感じています。決して古い企業をディスるとか、古いやり方をディスるような語り口じゃなくって、ちょっと今回は端折りましたけれども、今のコンテンツ産業っていうのがどういう風に成り立ってきたのかっていう歴史から紐解いていって、確かに今までこういうことがあったので、今、こういう業界になってるんだよね。でも、今、パーフェクト・ストームが来ているから、変わらなくちゃ皆さん、っていうような進め方をしています。古いコンテンツ産業に対しては温かい目で見ながら、時折厳しいことも言いながら、でも変われる、変わっていきましょうというメッセージを発信している本だと思いますので、非常に参考になり、アドバイスをもらえるところが多いかなというふうに思います。そんで、ぜひ興味を持った方は、読んでいただいて、それぞれのビジネスですとか、今後の制作活動にお役立ていただければなー、という風に思います。

─この後、モデレーターの橋本大也教授の仕切りで、会場との活発な質疑応答が行われました。

本記事は、2019年7月25日、デジタルハリウッド大学駿河台キャンパスにて開催の「デジタルハリウッド大学[DHU]メディアライブラリー主催 『激動の時代のコンテンツビジネス・サバイバルガイド出版記念セミナー』を文字起こししたものです。

『激動の時代のコンテンツビジネス・サバイバルガイド』書籍紹介ページ

マイケル D. スミス・ラフル テラング 著
小林 啓倫 訳
山本 一郎 解説
出版年月日 2019/06/26
ISBN 9784561227298
判型・ページ数 四六判・280ページ
定価 本体2500円+税