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双日総合研究所チーフエコノミスト 吉崎達彦

コロナ禍以降、特に習近平体制の3期目が始まって以降の中国経済を語ることは、きわめて難しいことになってしまった。

何よりこの3年間というもの、中国大陸とは人の行き来も途絶えがちで、鮮度の高い情報が乏しくなっている。さらにパンデミックや地政学的な諸問題のせいもあって、中国という存在そのものに対する忌避感も強まっているようだ。例えば商社の社内で「これからの中国経済」を議論していても、「習近平体制をどう捉えるか」をめぐって不毛な堂々巡りに陥ることがある。中国ビジネスで長いキャリアを持つ人たちも、心なしか元気がないように見受けられる。

ただし、ありのままの中国を知る必要性は、以前にも増して高まっている。もはやかつてのように、「上から目線」で中国経済を語ることができた時代ではない。生活水準が向上し、SNSで密度の高い情報を共有する14億人の市場はこれからどう動くのか。習近平体制の下で政治体制はどのように変化し、世界に対してどんな形で影響力を及ぼそうとしているのか。あるいはハイテクやエネルギー、宇宙開発といった先端分野で、中国は今どれくらいのレベルに達しているのか。そしてこれから先、われわれは経済安全保障の問題も含めて、この巨大な隣国とどう付き合っていけば良いのか。

そんなタイミングで、『チャイナ・エコノミー』第2版が出たことはまことにありがたいことである。第1版が出たのは、2018年2月のことであったから、もう5年も前のことになる。それまで中国経済について学ぶために、ずいぶん遠回りを余儀なくされた世代の一人としては、「もっと早くこの本に出会いたかった!」と痛感したものである。それくらい『チャイナ・エコノミー』は包括的に中国経済を描いていて、文字通り「痒い所に手が届く」本であった。特に改革・開放路線が始まった1979年からの歴史的な経緯を、詳しく説き起こしてくれている点が貴重であった。

白桃書房さんのご厚意により、その年の秋に来日中だった著者のアーサー・クローバー氏にお会いしたときのことも忘れがたい。クローバー氏は、長く北京で暮らす練達のチャイナウォッチャーであり、中国情報を英語で発信している。彼が創設した中国経済の調査サービス「ギャブカル・ドラゴノミクス」(GAVEKAL DRAGONOMICS)のニューズレターは、当社(双日総研)でも以前から購読している。

当日は、日本を代表するチャイナウォッチャーである津上俊哉氏に応援を頼み、秋葉原でクローバー氏にインタビューした。その日のクローバー氏は、「今は中国よりも、むしろ米国の政策の方が理解しにくい」と語り、ときのドナルド・トランプ政権の対中政策に関するユニークな分析を披露してくれた。幸いにも、東洋経済オンラインに掲載されたインタビュー内容は、今もネット上で読むことができるので、URLをご紹介しておこう(“米中新冷戦”は「中国優勢」なのかもしれない~在北京20年のアメリカ人中国専門家に聞く)。内容的にはやや古くなっているけれども、米中対立の構造について斬新な視点を提供してくれるはずである。

およそ中国経済について書かれた本は、「シャドーバンクというものがありまして…」などと現時点の話で始まり、読者の興味を「点」で喚起することに終始して、おどろおどろしい予言で終わることが少なくない。その点、『チャイナ・エコノミー』は、歴史という「線」や地理という「面」に広げて中国を語ってくれている。農業と工業、都市と農村、国有企業と民間企業、財政と金融、エネルギーと環境、人口と労働力、消費と投資、そして格差と腐敗まで、取り上げられている領域は広い。

(続きは、ぜひ本書をお読みください!)

著・訳者・解説 アーサー・R・クローバー 著/東方 雅美 訳
/吉崎 達彦 解説
出版年月日 2023/06/16
ISBN 9784561911401
判型・ページ数 A5・408ページ
定価 本体2727円+税