コロナ禍は、世界の隅々にまで影響を与えています。本稿は、昨年小社から『3つの切り口からつかむ図解中国経済』を刊行された三尾幸吉郎氏に、現時点における中国の経済指標の振り返りと、それを受けた中国の「新型インフラ」などの経済政策の今後、また米中対立に与える影響についてご執筆いただいたものです。

三尾幸吉郎(ニッセイ基礎研究所経済研究部上席研究員)

今や米国の方がダメージが大きい

結論から言えば新型コロナ禍は米中対立を激化させる恐れが強い。周知のとおり新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が最初に爆発的感染を起こしたのは中国の武漢市(湖北省)だったが、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染力は極めて強く、グローバル化が進んだ世界に瞬く間に拡散し、米国での確認症例数や死亡者数は中国のそれを遥かに超える甚大な被害をもたらす事態となった。そして、国際通貨基金(IMF)が4月15日に公表した経済予測によると、米国経済は20年に急収縮し、実質成長率は前年比5.9%減とリーマンショック後(09年)の同2.5%減を超える落ち込みと予想されている。

中国のコロナショックの現状

とは言え中国経済に与えた打撃も凄まじかった。新型コロナ禍で経済活動がほぼ全面停止していた20年1~3月期、中国の国内総生産(GDP)は、実質で前年同期比6.8%減とリーマンショック時を遥かに超える大打撃を受け、四半期毎の実質成長率を遡れる1992年以来で初めてとなるマイナス成長を記録した。産業別の実質成長率を見ると、宿泊飲食業が前年比35.3%減と大きな落ち込みとなったのを始め、卸小売業は同17.8%減、建築業は同17.5%減、交通運輸倉庫郵便業は同14.0%減、製造業は同10.2%減と大打撃を受けた産業は幅広い。

景気指標を見ても、個人消費の代表指標である小売売上高は前年比19.0%減と19年通期の同8.0%増からマイナスに転じた。生活必需品の多い日用品や“巣ごもり消費”が追い風となったネット販売は比較的堅調だったものの、その他はほとんど前年割れで、特に飲食は前年比41.9%減、自動車は同30.3%減と厳しい需要減に直面することとなった。また、投資の代表指標である固定資産投資も前年比16.1%減と19年通期の同5.4%増からマイナスに転じた。製造業が19年通期の前年比3.1%増から1~3月期には同25.2%減へ落ち込んだのを始め、不動産開発投資が同9.9%増から同7.7%減へ、インフラ投資も同3.8%増から同19.7%減に落ち込み、投資の三本柱が総崩れとなってしまった。

中国の復興施策

しかし新型コロナ禍の収束が明らかになった4月8日、習近平国家主席は、防疫対策への取り組みが常態化する中、生産・生活秩序の全面回復を加速する必要があると述べた。「防疫対策を常態化」するという条件付きながらも、経済活動の本格再開に舵を切ったのだ。それに際し社会的距離(ソーシャル・ディスタンシング)が必要になるため、対面での販売がままならず、小売売上高は先に紹介した1~3月期に続き4月においても前年比7.5%減と前年割れのままだったが、スマホを使ったライブコマース(ネットを使ったテレビショッピングのようなものだが、生産者や消費者、あるいはインフルエンサーがプレゼンする)が盛んになり、電子商取引(EC)が前年水準を上回るなど、勢いを増した新ビジネスもある。

また、中国共産党が3月5日に新型コロナ後を見据えた「新型インフラ」の建設を打ち出したことなどから、投資マインドには持ち直しの兆しがある。ニッセイ基礎研による推計では、前述の固定資産投資も4月単月では前年水準を上回り、インフラ投資は2桁増となった模様である。また、実質GDP成長率との連動性が高い工業生産(実質付加価値ベース)を見ても、1~2月期の前年同期比13.5%減をボトムに、4月には同3.9%増と前年水準を回復、特にハイテク製造業は同10.5%増と2桁の伸びを示し、自動車製造も同5.8%増とプラスに転じた。個人消費が弱いためサービス生産は依然として前年割れだが、マイナス幅は縮小傾向にある。前掲の国際通貨基金による経済予測でも、中国の2020年の実質成長率は前年比1.2%増とプラスを維持できる見通しとなっている。

新しい局面を迎える米中対立

そして世界第一位の経済大国である米国との差は、米国が蔓延の抑え込みに成功するかどうかも瀬戸際にある状況下、さらに縮小することが予想され、米国の世界覇権に挑戦する中国と、それを死守しようとする米国との軋轢はなお一層激しさを増しそうだ。

筆者は、昨年8月に上梓した『3つの切り口からつかむ図解中国経済』の「米中対立はどうなるのか?」において、米中対立を整理すると下図に示したような構図にまとめられるとして、

米中対立には経済貿易面、安全保障面、科学技術面の3つの側面があり、経済力がアップすると財政余力が増して軍事力もアップするという関係があります。それに加えて、科学技術力で優位に立った方は、自動運転やIoTに代表される第4次産業革命など経済貿易面で優位に立つとともに、サイバー攻撃など安全保障面でも優位に立てるという関係もあります。したがって、米中の覇権争いで優位に立つ決め手は科学技術力にある(以下略)

図 3つの切り口から見た米中対立の構図

(出典)『3つの切り口からつかむ図解中国経済』

と指摘した。そして、米国よりも一足早く新型コロナ禍から抜け出した中国は5月22日、延期していた全国人民代表大会(全人代、国会に相当)を開催した。
そこで改めて打ち出した、新型コロナ禍からの復興計画の柱が「新型インフラ」の建設である。具体的には、5G(次世代通信規格)や人口知能(AI)に代表される“情報インフラ”、高度道路交通システム(ITS)やスマートエネルギーに代表される“統合インフラ”、科学研究や技術開発をサポートする“革新インフラ”の3つが柱だとされる。これが順調に進めば中国の科学技術力は比較的に強化されるだろう。米国が新型コロナ禍の克服に手間取るようだと、中国の科学技術力が米国の水準に急接近する可能性もある。Withコロナ時代の火蓋が切られるのとともに、米中対立も正念場を迎えたと言えそうだ(2020年5月22日記)。

三尾 幸吉郎 著
出版年月日 2019/08/26
ISBN 9784561923046
判型・ページ数 A5・288ページ
定価 本体2315円+税