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「なぜ『一流誌』の論文は退屈でつまらないのか?」――なんとも挑戦的な文句が帯を飾る。著者は「何らかの意味で論文の質は向上したのかも知れない。しかしだからと言って、それに対応して面白くて影響力のある理論の数が増えたというわけではない」と言う。そこで本書は、研究という営みの根幹にある「問い」に目を向ける。

◆ギャップ・スポッティング――論文大量生産装置――
社会科学においては、先行研究の隙間を見つけ出しそれを埋めるための――ギャップ・スポッティング的な――問いが主流であると筆者は分析する。そして言う、それらは「面白くない」と。

こうした問いは先行研究の前提を容認・補完するものだ。それゆえ、「既存の理論や先行研究の根底に対して挑戦するのではなくむしろそれらを再生産する傾向があるので、面白い理論の開発につながる可能性は低い」(なんとも耳が痛い話だ)。

◆ではどうすればいいのか?――「問題化」という方法論――
インパクトのある理論に結びつく面白い問いを生み出すには、「特定の研究テーマに関する既存の理論(自分のお気に入りの理論を含む)の根底にある前提に光をあてて、それに対して挑戦」すること――「問題化」――が必要だと筆者は述べる。既存の理論をなぞるのではなく、学派やパラダイムのなかで共有されている前提を問い直し、弁証法的に新たな理論を生み出していくのだ。

言うは易く行うは難し? いやいや、本書には「問題化」の実践例も豊富に盛り込まれており、自身の研究に活かせる具体的なヒントが盛りだくさんだ。要点が図で整理されているのも嬉しいところ。

最後に本書の魅力をもう一つ。本書は「なぜつまらないギャップ・スポッティングが学術界では支配的になっているのか?」と、学術界それ自体に「問題化」を行っている。業績主義、競争の激化、分野の細分化、研究者のキャリア……これらは京大生にとっても他人事ではない。ぜひその目で本書の結論を確かめてもらいたい。

◆学部生のあなたに――あなたの問いはどこから?――
とはいえ、自分の問いが何かわからない、関心がある分野も定まらないという学部生の読者もおられるはず。ご心配なく。そんなあなたには『リサーチのはじめかた 「きみの問い」を見つけ、育て、伝える方法』(筑摩書房)をお薦めしよう。副題通り、あなたの問いと伴走してくれる最良の書だ。そしてまだ若き一・二回生には、より根源的なレベルから自らの「問い」を考える時間が残されている。『問いの立て方』(ちくま新書)が良き導き手となるだろう。

問い――それは知への扉を開く鍵穴だ。最後に本書に倣い、この言葉を贈ろう。破壊的創造を生み出す探求者たれ。
       
初出:京都大学生協書評誌『綴葉』2023年12月号(No. 423)
•HP:https://www.s-coop.net/about_seikyo/committee/teiyou/
•バックナンバー:https://www.s-coop.net/about_seikyo/public_relations/
•X:https://twitter.com/kyodaiteiyo

執筆:浅煎り、こと水野遼太郎(京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程。専門:社会学)
https://researchmap.jp/ryotaromizuno

書名 面白くて刺激的な論文のための
リサーチ・クエスチョンの作り方と育て方
著・訳者 マッツ アルヴェッソン/ヨルゲン サンドバーグ 著
佐藤 郁哉 訳
出版年月日 2023/06/26
ISBN 9784561267829
判型・ページ数 A5・296ページ
定価 本体2727円+税