序章 科学で解き明かすリモートワーク(抜粋)
──データ分析からわかったこと・いいたいこと
本書は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大に伴う企業経営の変化を対象として,異なる視点から分析した8 本の研究成果を収録している。これらの研究で分析の中心となるのは,リモートワークをめぐる組織的な現象である。
本章では,次章以降で展開される分析に入る前に,リモートワークに関わるマネジメント上の一般的な問題点を見た上で,各章での分析内容を概観し,そこから示唆される主な論点を整理する。
1. リモートというワークスタイル
きたるべき未来の働き方,それを予感させるのがリモートワークである。それは,PC やスマートフォンなどの情報通信技術(ICT)を活用して,職場を離れて,自宅をはじめ職場ではない場所で仕事をすることであり,時間と場所にとらわれない柔軟なワークスタイルを理想としている。SNS やモバイルデバイスが普及し,デジタル化やオンライン化がめざましいスピードで進んだ2010 年代から,徐々に導入されはじめた。一部の職場では,コロナウイルスの影響が出はじめる前から実践されていた新しい働き方でもある。それが,COVID-19 の感染拡大を受けて,一気に広がりを見せた。
リモートワークには3 つのタイプがあることはご存じだろう(とはいっても,べつに知らなくてもよいことだが)。自宅で仕事をするホームオフィス型,勤務先の職場ではないが,情報通信環境が整った施設を利用するサテライトオフィス型,飲食店や待ち合わせ場所,移動の合間の車中などで情報をやりとりして作業するモバイルワーク型である(厚生労働省https://telework.mhlw.go.jp/telework/,日本テレワーク協会https://japan-telework.or.jp/tw_about-2/)。どれもこれも,職住が分離し,社に残って残業するのが当たり前という意識が身についていたこの国では,なかなか思いもつかなかった働き方かもしれない。
1990 年代から,不動産管理業・オフィス機器メーカー・IT 事業者などが中心となって,「オルタナティブ・オフィシング」という舌を咬みそうなオフィス戦略がさかんに喧伝された(岸本,2007)。社員が指定された自分用のデスクを持たず,図書館のように自由に場所を選んで仕事をするオフィススタイルは,フリーアドレスと呼ばれている。このような職場内の「非定住化」が,リモートワークへの心理的抵抗感を低めたともいえる。
組織への所属意識(メンバーシップ)や職場の居場所感を,デスクという場所に紐づけて働いてもらうのではなく,自分がどのような仕事を行い,どのように組織に貢献するかという,職務と働き方(ジョブとワーク)の中身自体が,職務満足や職務パフォーマンスの中核を担うようになった。ジョブ型雇用という言葉をよく耳にするようになって,それを地でいくかのように,自分のデスクがなくても,モバイルデバイスとインターネットがあれば,自分自身の存在感を示すことができるようになったのである。
インターネットが社会に広く普及し,モバイル環境が充実してくると,情報通信技術(ICT)に明るい従業員であれば,文字通りいつでもどこでも情報へのアクセスが可能になり,多様なワークスタイルが実現できるようになった。ユビキタス(いつでもどこでも)というカタカナ語さえ死語になるほどICT が進んだおかげで,自宅やサードプレイスからモバイル環境にアクセスできるようになって,新しいワークスタイルの前提条件が見事に整ったわけである。
そして緊急事態宣言のもと,不要不急の外出が制限された2020 年には,自宅をオフィスとする働き方が一気に普及した。自宅に居ながら自分の裁量で仕事を行う新しい働き方は,それまで政府が進めてきた「働き方改革」のかけ声をよそに,コロナウイルスに対する人間の恐怖心と,密閉・密集・密接(3 密)を避けるという感染症対策に後押しされて進んだようである。
ただし,他人の目がなく,緊張感のない自宅環境で,食卓や子供の学習机を借りて,ペットや子供に邪魔されながら,家事と並行して仕事を進めるあり方に,当初はとまどいを隠せない人も多かった。「子供部屋はあっても書斎がない」という,そんな日本の笑えない住宅環境では,職住一体はいいけれど,家族全員がリモートになると,改めて住宅の狭さを意識させられた。
それでも,フリーアドレスに慣れている従業員や,ラッシュアワーの「痛」勤をがまんしてきた従業員であれば,リモートワークを歓迎する向きもあった。通勤ラッシュのストレスや職場の人間関係のうっとうしさを感じることが少なくなったおかげで,ようやく人間らしさを取り戻したような気になった人もいるだろう。
仕事の場面での非対面にもだんだん慣れてくると,リモートワークが当たり前になり,元の勤務スタイルには戻れなくなる。帰宅前に寄った赤ちょうちんが懐かしくてたまらない世代でなければ,自宅や近所に居ながら働けるのは,気楽でいい。
そのおかげで,これまで不況知らずといわれた化粧品業界は,大きな転換点を迎えている。インバウンド需要が蒸発した上に,国内の化粧品消費が低迷するというダブルパンチだ。在宅で,あるいは職場でマスクをしながら働いている女性社員の多くから,「化粧しなくていいから,楽~!」と感じられている。
リモートは,新たなライフスタイルを呼ぶ。自分の裁量で働くことが許されている組織では,リモートワークで自宅に居れば,いつどのように働いてもかまわない。短時間労働であっても,長時間労働であっても,自分の裁量で決められる。自由に使える時間が増えたり,服装が自由になったり,家族との対話が増えたりといったメリットがある。
その一方で,仕事と生活の区別がつきにくくなるという副作用もある。ON とOFF の切り替えは,スマホのサイドボタンの長押しで済むほど,簡単なことではない。
リモートワークを経験すれば,元の勤務スタイルに完全に戻ることはないだろう。だから,トライ・アンド・エラーで新しい働き方を目指すしかない。「スフレを焼き直すことはできないとだれかが言ったように,(ビートルズも)元には戻らない」と,ポール・マッカートニーは言った(1980 年7月談)。覆水盆に返らず。マザーグースで謡われるハンプティ・ダンプティ(卵男)のように,けっして元に戻ることはないのだ。
企業としては,リモートワークを推進して,オフィス賃料・光熱費・通勤費などの支出を抑えることができる。従業員の通勤や出張を制限することで,自動車や電車や飛行機の利用に伴う排出ガスを削減すれば,環境にやさしい企業として消費者にアピールできる。雇用を守って人件費は変わらなくても,管理に付帯するコストを削減する効果は小さくない。
一方,リモートワークに必須となる情報通信機器(ICT)──モバイルデバイスやクラウドやオンラインコミュニケーションやセキュリティなど──への設備投資は,システム投資が費用削減に見合うかどうかできまる。情報環境整備に企業が積極的になれるのは,費用対効果──リモートワークで浮くコストがICT への投資額を上回るかどうか──が,最大の懸案事項である(Uchenna, Uruakpa, & Uche, 2018)。リモートワークが新しい働き方だとか,従業員にとってよいことだと,従業員の見方ばかりをあげつらっていても,設備投資は進まないだろう。
ホームオフィス(在宅)でのワークスタイルが一時的で,過渡的にすぎないことは,予想の範囲内である。第5 世代移動通信システム(5G)が完備され,場所の制限がなく高い通信環境が手に入る時代がくれば,いつでもどこでも,場所や時間を問わず働くことができる。在宅勤務(working from home : WFH)という形態は,通勤時間を減らし勤務時間を調整することで,時間的柔軟性を増すことができる(Evans, Kunda, & Barley, 2004)。一方で,どこでも勤務(working from anywhere : WFA)であれば,都心を離れて居住地や働く場所を好きに決められるため,地理的・空間的な意味での柔軟性も確保できる(Choundhury, Foroughi, & Larson, 2020)。仕事に関して,時空という大きな制約を超え,新たな次元や悟りの境地に至る可能性があるわけだ。
そう遠くない将来に,月への滞在や火星への移住を目指す宇宙ベンチャー世代には,仕事で時空を超えるのは,とっても魅力的だ。
2. リモートワークに伴うマネジメント上の課題
COVID-19 感染拡大に伴って,リモートワークが急速に導入された直接の目的は,対人接触の削減によって,感染を抑制することにある。リモートワークによる職場での対人接触の減少は,企業組織における仕事の進め方を根本的に変えることにつながる。さらに,従来の仕事の進め方が変わることは,従業員個人と企業組織の双方に変化をもたらす。
リモートワークがもたらす望ましい変化は,まず従業員の個人レベルで生じる。何より,通勤時間がなくなったり,大幅に低下する。とりわけ東京や大阪といった大都市圏では,満員電車に揺られて長時間かけて通勤する必要がなくなり,従業員の負担は軽くなる。仕事をする場所も限定されないことから,仕事のスペースが確保できれば,自宅でも,どこでも仕事ができる。従業員個人としての仕事の裁量も広がる。自宅で仕事ができて,仕事の裁量が拡大するのであれば,ワークライフバランスにも貢献する。
リモートワークのメリットは,従業員個人だけではなく,企業側にも存在する。従業員が余裕を持って前向きに仕事ができるのであれば,仕事の質は向上し,ひいては企業側でも高い成果が期待できる。
ただし,本書の読者であれば十分承知しているだろうが,リモートワークを単純に導入するだけで高い成果が引き出せるわけではない。しかも,リモートワークへの移行は,従来の業務にはない様々な問題をもたらす。
リモートワークに伴って生じる問題の根本的な原因は,同じ職場に物理的に集まって仕事をしなくなるために,仕事における広義のコミュニケーションのあり方が従来とは大きく変化することにある。
まず従業員間で同じ場を共有しないために,一緒に仕事をしている人々が実際に見えなくなる。そのために,上司や部下,同僚が何をしていて,何を考えているのかがわかりにくくなる。
お互いに見えにくくなれば,コミュニケーションもとりにくくなる。同じ職場で働いていれば,声をかけるだけ,話をするだけで済む。しかし,リモートワークでは,電話であろうが,電子メールであろうが,Slack のようなコミュニケーション・ツールであろうが,何らかの手段で相手に連絡をとらなければならない。使う手段によっては,すぐに反応がないこともある。いかなる手段を使っても,対面的なコミュニケーションほどの情報が伝達できるわけではない。例えば,Zoom のような動画を伴う情報でやりとりをしたとしても,その場の雰囲気のようなものは伝わりにくくなる。
このように,仕事で協力すべき人々がお互いに見えにくくなり,コミュニケーションがとりづらくなると,仕事上の連携もとりにくくなる。組織的な活動では,人々の間で分業して,それを統合することで1 つのことを成し遂げる。したがって,人々の間で連携がとりにくくなると,組織として取り組んでいる仕事もうまく回りにくくなる。
また,リモートワークの影響でコミュニケーションが量的・質的に低下すれば,人々の関係性が弱まり,職場の上司や同僚に対する信頼感も低下する可能性がある。他人に対する信頼感は,相手がどのような人で,何を考えているのかを理解することをベースとして成立している。だから,相手に対する理解が得られなければ,信頼感は育まれない。つまり,広義のコミュニケーションがむずかしくなれば,当面の仕事に必要な情報というフローの側面だけではなく,人々の間での関係性や信頼感のようなストックの側面にも悪影響が生じることになる。
さらに,リモートワークへの移行は,企業側だけではなく従業員個人にも,心理的な要因を中心として問題をもたらす可能性がある。その1 つは,孤立感である。職場で上司や同僚などと接していると,叱責されたり,嫌みを言われたりなどと嫌なこともあるだろう。その反面,自分を手助けしてくれたり有益な示唆をしてくれたりと,公私両面で支援してくれる存在にもなる。リモートワークによって職場に集まることがなくなれば,仕事で嫌な目に遭うことも少なくなるが,支援も少なくなる。その結果として,仕事での孤立感が高まる可能性がある。
以上のように,リモートワークには,導入に伴うメリットと同時に,単純に移行するだけでは解決しない課題が,様々な側面で想定されるのである。
3. 本書での調査・分析の方法
リモートワークを積極的に活用していくためには,適切な対応策を打って,従来の仕事の進め方を変えていく必要がある。しかしながら,リモートワークに伴って生じる課題や対応策については,必ずしも明確になっていない。とりわけ日本では,COVID-19 感染拡大以前には欧米諸国と比べてリモートワークが積極的に導入されておらず,実際の状況での対応も進んでこなかった。
そこで,本書では,COVID-19 感染拡大後(2020 年)に日本国内で実施した調査に基づき,リモートワークに伴う課題やその対応策を中心とする議論を展開していく。
本書で取り上げる研究は,それぞれが異なる視点に基づいて独立に分析されているものの,次の2 点では共通している。
第1 に,質問票(質問紙)調査(questionnaire survey)を通じて測定した数量データに基づいて,分析が進められている点である。広義の実証研究の手法としては,調査や観測で収集した数量データを分析するものと,資料や聞き取り調査などを通じて収集した質的データを分析するものがある。このうち,本書を構成する各章では,数量データに基づく定量的分析を中心としている。なお,COVID-19 感染拡大に伴う事象を対象とする定性的な事例分析は,本書の姉妹編である『リモートワーク・マネジメントII:事例編』で,別途展開している。
第2 に,統計的手法を用いて,測定した要因間での因果関係(causal relationship)を中心に分析している点である。
質問票調査などで集めた数量データは,平均値や頻度などを表にまとめた
り,グラフで示したりすることで,概要を示すこともできる。このような分析方法は,記述統計(descriptive statistics)と呼ばれる。COVID-19 感染拡大に伴い,様々な組織・団体によってリモートワークに関する調査が実施されているが,その多くでは記述統計として調査結果が公表されるにとどまっている。
それに対して,本書の各章では,章の前半において記述統計を用いて調査結果の概要を示した上で,推測統計(inferential statistics)の手法を用いた因果関係の推定を,分析の中心に据えている。原因となる要因が結果として想定される要因に与える影響を,統計的な手法を通じて考察しているということである。
(略:「コラム:分析結果の読み方」)
なお,学術論文において推測統計に基づく定量分析を行う場合には,既存の研究に基づいて検証可能な仮説を設定して,分析結果から仮説の妥当性を検討するというスタイルが一般的だが,本書ではそのようなスタイルを必ずしも重視していない。
その1 つの理由は,広い読者を想定して,できるだけわかりやすく記述することにある(それでも,数量的な分析結果がふんだんに盛り込まれていて,簡単に理解できるわけではないから,ガンバッて付いてきてほしい)。
また,分析対象とする日本企業において,リモートワークはCOVID-19 感染拡大に伴い急激に進んだ現象であり,わからないことが少なくない。そこで,「定説」の妥当性を検討するよりも,むしろ「定説」自体が確立していないために,本書の分析では,何が起こっているのかを探索的に明らかにすることに重きを置いている。
4. 各章の概要(略)
5. これだけは知っておきたいリモートワーク
──本書が示唆する主な知見
各章での調査と分析は独立して行われており,COVID-19 感染拡大に伴って生じた多様な側面を映し出している。その一方で,分析結果は大筋では矛盾しておらず,重複したり,補完的であることもある。そこで,各章の議論から示唆される主な知見を,編者らの視点からまとめておきたい。
まず,リモートワーク下での成果・結果を示す要因(従属変数)として,従業員レベルでの仕事の生産性がまず考えられる。加えて,本書の各章では,仕事の生産性以外にも,次のような要因が成果・結果として取り上げられている。
(1) 仕事に対する積極的な姿勢である「ワーク・エンゲージメント」
(2) 従業員の「ウェルビーイング」
ウェルビーイングは,ワーク・エンゲージメントというポジティブな側面と,ストレスというネガティブな側面の2 つからとらえることができる。
(3) 職場全体としての組織的成果
(4) 上司や同僚に対する信頼
(5) 創造的活動への従業員の関与
(6) 上司と部下とのコミュニケーションの「すれ違い」
(7) 従業員の孤独感やていねいに評価されていないという感情
(8) リモートワークへの転換の速さと持続性(ないし「揺り戻し」)
リモートワークを導入するには,従業員個人の生産性の維持・向上だけを考えればよいわけではない。個人レベルや組織レベル,あるいは従業員相互の関係で,幅広く検討すべき側面があることがわかる。
この8 つの従属変数に影響を与える主な関係としては,次の点が指摘できる。
・リモートワークでの仕事の生産性には,個々の従業員が状況に合わせて自分の仕事を変化させる「ジョブ・クラフティング」が影響を与える。
・ワーク・エンゲージメントには,ジョブ・クラフティングに加えて,上司の行動のあり方が影響を与える。
・従業員のウェルビーイングのうち,ストレスには,仕事の負担感だけではなく,上司や同僚の支援行動も影響を与える。
・リモートワーク下での従業員レベルの生産性には,情報技術を用いた新たなコミュニケーションなどのリモートワークと直接関わる要因が影響を及ぼす。
・その一方で,職場全体の成果に対しては,リモートワークに関わる要因や従業員レベルの生産性の影響は限定的で,むしろ知識・スキルの標準化や上司のリーダーシップといった従来の組織的な調整・統合手法が大きな影響を及ぼす。
・リモートワーク下での上司や同僚に対する信頼には,上司による具体的な指示や,進捗管理のあり方(上司による進捗管理を短くするとともに,従業員間で進捗状況を共有すること)が,影響を与える。
・リモートワーク下での創造的活動には,上司や同僚に対する信頼や進捗管理のあり方,ならびにそれらの組み合わせが影響を与える。
・上司と部下とのコミュニケーションを円滑に進めるには,上司に対する部下の信頼と上司と部下との関係性が影響を与える。
・従業員間の雑談を活性化し,リモートワークでの孤独感やていねいに評価されていないという感情を軽減するためには,ユーモアが有効である。ただし,他人を攻撃するユーモアは好ましくなく,洒落っ気があるユーモアが望ましい。
・リモートワークへの転換を円滑にして,持続的に進めるには,事業や個人の特性だけではなく,組織能力が大きな影響を与える。
以上の議論から主な論点を抽出すると,(1)上司がどのような行動をとり,部下との間でどのような関係を構築するか,(2)同僚との間でも,どのように仕事を進め,どのような関係を構築するか,(3)技術的な要因として,コミュニケーションがとりやすい体制をどのように組織的に構築するか,(4)従業員個人として,どのように自分の仕事を作り変え,仕事に取り組むか,(5)企業組織として対応できる能力をどのように構築するか,といった点が,リモートワークでの成果に影響を与えることがわかる。
また,COVID-19 感染拡大における危機的な状況への対応も,考察されていた。そこでの知見は,次のようにまとめることができる。
・COVID-19 感染拡大のような危機的状況に適切に対処するには,「組織レジリエンス」という,不測の事態から復旧するための組織能力が影響を与える。
ここで挙げた以外の分析も,各章では幅広く展開されている。詳細については,各章の議論を参照していただきたい。
本書で取り上げた要因は多岐にわたっているが,リモートワークに関わるすべての要因を網羅しているわけではなく,取り上げた問題であっても,明確な結論が出ていないこともある。リモートワークの問題をできるだけ解消して,COVID-19 の収束後においても,リモートワークを積極的に活用していくためには,リモートワークをめぐる諸問題に関するさらなる探究が求められる。
リモートは新しいワークスタイルであり,仕事と家庭を巡り巡って,これまでにないライフスタイルを呼び込む。いろいろたいへんなこともあるけれど,けっして悪いことばかりではない。
自宅に居ながら家族の目の前で働くようになると,職場の常識が通じないのでやりにくいこともあるし,在宅勤務に伴っていろんなことが起きる。オンライン・ミーティングの最中に,背後に子どものファニーフェイスが映り込んだり,家族の怒鳴り声が聞こえたり,犬の鳴き声が入ったり。オンラインで久々に実家に戻って安堵することもあれば,遠距離でなかなか会えない恋人との距離が縮まることもある。
家族や大切な人との絆を再確認できるのもリモートワークの作用である。上司がいなくても困らないけれど,家族や友人との間柄がなくなっては困る。成長や自己実現やエンゲージメントなど,働くことで個人のポジティブな面がなにかと強調されるが,じつは子どもや家族やペットなどとの親密な関係が基盤となっていることを知ることができる。
来るべき未来の働き方を予見させるリモートワーク。ずっと自宅に閉じこもって働くのでは,自宅謹慎させられているようでかなわないが,反対に,リモートワークが許されないからといって,会社を辞める人もいる。働き方は人それぞれだ。リモートワークで,自分の生活をブルーにするのもバラ色にするのも,すべてはあなたの心がけ次第。
リモートワークで,自分の生活をブルーにするのもバラ色にするのも,すべてはあなたの心がけ次第。
(参考文献)
Choudhury, P., Foroughi, C., & Larson, B. (2020). Work-from-anywhere: The productivity effects of geographic flexibility. Strategic Management Journal, 1-29. https://doi.org/10.1002/smj.3251
Evans, J. A., Kunda, G., & Barley, S. R. (2004). Beach time, bridge time, and billable hours: The temporal structure of technical contracting. Administrative Science Quarterly, 49, 1-38.
岸本章弘(2007).「変革するワークプレイスの現在と未来」『日本画像学会誌』47(1),25-31.
Uchenna, O., Uruakpa, P. C., & Uche, E. (2018). Impact of telecommuting on employeesʼ performance: A focus on elecommunication out-fits in Owerri, Imo State. Journal of Economics and Management Sciences, 1, 54-61.
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