本書の初版が出版されたのは,今からちょうど10 年前のことである。その初版で我々が提示した中心的なアイデア,すなわち,「単に既存文献における[リサーチ・]ギャップを見つけ出してそれを埋めていくのではなく,それらの文献の前提になっている考え方に対して挑戦していくことこそが,より魅力的でしかもインパクトがある研究へとつながっていく」というアイデアに対する反響は,当初の予想をはるかに超えるものであった。
我々が提案した問題化(problematization)という方法論の枠組みは,既存文献の基盤になっている前提を批判的に検証することで,研究者がより魅力的でインパクトのある研究をおこなえるようにするためのものであった。この発想は,論文の著者たちだけでなく,社会科学系の数多くの学術ジャーナルの編集委員をつとめる人々によっても広く活用され,また参照されることになった。
この新版では,全体として,各章で展開されている議論における幾つかの重要な点について例証するために,初版に比べてさらに詳しい説明を心がけ,またより多くの事例を盛り込むようにした。それに加えて,過去10 年間に発表されてきた,革新的で独創的な研究をおこなうための方法に関する各種の研究に含まれている洞察を本書の中に取り入れた。
第1章では,社会科学と自然科学の双方で現在見られる,ある1つのパラドックスについてより深く掘り下げて検討している。そのパラドックスをひと言で言えば,次のようなものである――「これほど多くの人々が多大なる努力を傾けており,また,これだけ多くの論文を発表しているにもかかわらず,きわめて小さな成果しかあげられていない」。要するに,研究の数自体はますます増えているのだが,その割には破壊的創造をもたらすほどの重要性を持ち,またインパクトがある研究はあまり発表されていない,ということである。
第4章では,「面白い(interesting)」研究の特徴について,初版の場合よりもさらに詳しく解説し,またその実例を示しておいた。さらに,新しいセクションを追加した上で,「より面白い研究を追求する」という考え方に対する批判的な立場から提出されてきた最近の議論について考察を加えた。
第6章では,どのようにすれば,我々が提唱する問題化のフレームワークを用いることによって,既存の文献の根底にある前提に挑戦し,また最終的に,より斬新で魅力的なリサーチ・クエスチョンを生み出すことができるか,という点を示すために,追加的な例を挙げて説明した。最後に第7章では,研究者特有のアイデンティティが,いかにして,ある場合には,革新的で独創的な研究の遂行を促し,別の場合には,それを妨げる要因になるかを示すために,より多くの具体例を取りあげて解説した。
私たちは,この新版が,研究者を鼓舞し,また,従来型の研究の多くに見られる後ろ向きで否定的な傾向を打ち消して,それとは正反対の性格を持つ研究,つまり理論的にも実践的な面でも重要な変化の契機となり得る,より独創的で革新的であり,かつ創造的破壊をもたらすような研究にとって何らかの刺激になることを願っている。
2023 年7 月 ルンドおよびブリスベンにて
マッツ・アルヴェッソン,ヨルゲン・サンドバーグ
書名 | 面白くて刺激的な論文のための リサーチ・クエスチョンの作り方と育て方 第2版 |
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著・訳者 | マッツ アルヴェッソン/ヨルゲン サンドバーグ 著 佐藤 郁哉 訳 |
出版年月日 | 2024/11/16 |
ISBN | 9784561267966 |
判型・ページ数 | A5・344ページ |
定価 | 本体2727円+税 |