ダニエルより

母は,首を振りながら,「でもねえ……そんなにきれいなのに」とか,「これからどうするつもり?」とか,一体何度言ったことでしょう。私には,母の言っていることがさっぱり理解できませんでした。きれいなゲイじゃだめなの? ゲイは幸せになれないって言うの? ゲイには明るい未来はないの? けれども私は気づいていました。母は,私の成長を目にしながら,頭の中で私の将来を決めつけてしまっていたのです。それを振り払うのはとても大変なことだったのでしょう。ほぼ20 年をかけて,私の将来をかなり具体的に思い描いてきたのに,たった一つのこと,私がゲイであるために,それがすっかり変わってしまったわけです。私が女性に引かれるようになったという事実のせいで,母が思い描いた私の将来は崩れてしまいました。私がこれからどんな人生を歩むのか分からなくなった母は,とても苦しんでいました。

A. 将来自分がどんな人間になるか,はっきりと見えることなどめったにありません。そして,そのような将来像が一生変化することなく,それに合わせて正確に人生が展開していくということもまずないでしょう。人生では,ルールブックや,ガイドラインや,期待からはずれるようなことは当たり前に起こります。私たちは,自分が人生のある特別なときに差しかかったことに気づき,「こんなこと予想もできなかった。それでも私はここにいる。今となっては,ほかのあり方なんて絶対に考えられない」と思うことがよくあるでしょう。この新しい現実に何度も順応しながら,私たちは,いつもこんなふうだったとか,最初からこうなるはずだったとかいう感覚を持つのです。

 人生にはこのように紆余曲折があるものですが,特に面倒なのは,何か新しいことや,予想も想像もしなかったことに初めて出合ったときです。ミシェルの娘のゾーイは18 歳でカミングアウトをしましたが,ミシェルは自分の娘がハイスクール時代にいろいろな男の子とつき合っていたのを見ていたので,ゾーイの将来はこんな感じだろうという明確なイメージを持っていました。「ゾーイが立派なお母さんになって,すてきな旦那さんと,たくさんの子どもと,犬に囲まれて暮らしている様子が目に浮かびました」と説明しています。「次はどうなるかが分かったつもりになっていました。ところがそこに,まったく違った将来像が現れたのです」。あなたにも,子どもが成長するのにつれて,将来の姿を思い浮かべた経験があると思います。確かに,そのような将来像はあなたの周囲にあるものや,あなた自身がこれまでに経験したことによって決められたものです。そうやってできた将来像の中には,あなたが子どもたちの年頃に,やり遂げられればいいのにと思ったことと一致するものもあるでしょう。子どもが,何かの科目を勉強し,ある決まった服装をして,結婚をして家族を持ち,仕事で成功を収める場面を想像したかもしれません。あなたがゲイでないのなら,子どもがゲイになることなど想像しなかったでしょうし,知人にゲイの人がいなければ,ゲイという可能性を考えに取り込む術もありません。私たちに考えられるのは,自分が知っていることだけです。ですから,「ゲイ」としての将来がどんなものかを知るようになるほど,あなたの感情的混乱も次第に静まってくると思います。

 まず,あなたの子どもの将来像が混乱してしまうのはなぜか,その理由を自分に問うてみてください。あなたが将来を不安に感じているのは一体なぜなのかをよく考えてみるのです。たとえば,子どもが家に連れてきた相手が,あなたが最初に思っていたのとは違う性別の人だからでしょうか? それとも,子どもの性的指向を,家族や,行動や,服装や,政治や,宗教など,ほかのあらゆる事柄と結びつけたからでしょうか? もつれてしまった感情のかたまりと格闘するよりも,子どもに対する見方を一つ一つ解きほぐしていってください。息子が男の子を家に連れてきたとか,娘が女の子に恋したとか考えること自体が,最大の難関だというなら,あなたの最初の反応が,恐れや,混乱や,不確かさであるのは当たり前だと知っておいてください。最初から完璧な反応をして,支えになってやろうという気持ちになれるわけではないのです。最初に抱いた感情や恐れに対して,辛抱強くいてください。あなたの子どもの新しい(そして,常に変化する)将来像に対応するためのツールを用意してください。あなたに必要なのは,新しい将来像にどんな意味があるのか,どのようなものなのか,どんな感じがするものなのかについて知っておくことです。

 新しい家族構造や,その他LGBTQ の人たちのさまざまな人生経験についてもっとよく理解するためには,いろいろな方法があります。本を読んだり,ドキュメンタリー番組を見たり,同じような経験をしている人と話をしたりすることはいずれも,自分の感情に取り組み,熟考していく上ですばらしい方法です。こうした活動に積極的に参加することで,このプロセスにうまく対処し,あなたの子どもの将来像をもっと柔軟に思い浮かべられるようになるでしょう。資料一覧(199 ページ)に紹介したビデオや本などの資料が役に立つだろうと思います。

 子どものセクシュアリティを,子どもの将来のアイデンティティというパズルの,その他数多くのピースと一緒にはめ込もうとするのは,ちょっと待ってください。

 子どものセクシュアリティが,子ども自身を形作っているその他の要素に必然的な影響を与えているわけではありません。セクシュアリティによってその人の家族構成や昇進への道が影響されることもありますが,必ずそうだとは言い切れないのです。子どもの将来像について考えるとき,たとえ子どもがゲイでなくても,何を願い考えているかに驚かされることはあるはずです。

 こうしたもっと幅広い疑問が湧いてきたとき,子どものセクシュアリティによって,宗教や,政治や,家族に対する関心が,何らかの形に決めつけられてしまうのではないかと思うよりも,子どもと話し合うことが一番です。とにかく子どもに聞いてみてください! 家族や仕事についてどう考えているかを尋ね,どんなことから刺激を受けているかを確かめてください。そしてその反応を基に,子どもの将来像を思い描いたり,修正したりしましょう。人生のあるときに自分の刺激になったものと,別のときに刺激を受けたものとが,まったく違う場合もあるということを覚えておいてください。今この瞬間を生きている子どものことを十分に理解するよう努力しましょう。私たちが思い描いている夢や希望は,時が経つにつれて変化するものです。ですから,自分が大切に思っている人の夢や希望や願いごとが変わっても,それを進んで受け入れなければいけません。そして,自分の気持ちを整理するために辛抱強くなることです。

『LGBTの子どもに寄り添うための本』内容紹介詳細目次・立ち読みへのリンク