『中国物流産業論』内容紹介

日本の停滞と中国の躍進をもっとも象徴的に示す産業分野は物流ではないだろうか。

2017年、日本では物流危機が大きな話題となった。ネット通販の隆盛に伴い、物流企業に過剰な負荷が加わった。ヤマト運輸の値上げと一部業務の撤退から始まり、年末には日本郵便の遅配も噂された。

対照的だったのが中国だ。「双11」(11月11日に開催されるネット通販の一大セール)では毎年、物流のパンクがニュースとなってきたが、2017年は大きな問題が起きなかった。巨額のインフラ投資による物流網の整備に加え、ITの活用など産業の高度化によって物流需要の爆発をねじ伏せた。

かつては中国で最も非効率な産業の一つだった物流がなぜこれほどの進歩を遂げたのか。本書は広範な資料収集とフィールドワークの組み合わせによって、中国物流の高度化がいかになされたのかを読み解くものである。マクロ的統計から総論を描く第一部、トラック輸送、水運、鉄道輸送などモード別に分析する第二部、個別企業を分析した第三部という構成だ。

個人的には第9章では中国最強の民間宅配企業に成長した順豊エクスプレスのケーススタディが興味深い。1993年にはわずか6人で起業し、香港と広東省の間の工業サンプル輸送の会社としてスタートしたが、中国経済の飛躍的成長を追い風に急成長を続け、2016年には深圳証券取引所への上場を果たしている。本書では同社のITや教育への積極投資について触れられているほか、利益率の低いネット通販業務にどう取り組むのかという苦悩も取り上げられていて、興味深く読んだ。

中国物流の変化、ひいては中国経済がどのように変化し高度化していくのかを知る上で重要な一冊だ。

 

高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。 1976年生まれ。二度の中国留学を経て、中国専門のジャーナリストに。『ニューズウィーク日本版』『週刊東洋経済』など各誌に多数の記事を寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)。